所長のエッセイ

所長のエッセイ

ちょっといい話(夕焼け)

大学1年生になった幸恵ちゃんが、帰省して遊びにきて下さった時の、ちょっといい話です。

 私が保育園に通っていた頃の話です。
その頃、私の家は、少し家計が苦しくて両親は共働きでした。保育園は、午後三時に終わるのですが、親が仕事などで迎えに来られない子は、延長保育で見ていてくれました。私をふくめ十人くらいの子がいつも残っていました。みんなで、運動場でゲームをやったり、遊具に乗ったりしていると迎えの人が来て、夕方になるにつれだんだん子供の人数が減っていきました。そして、その日は、とうとう、私と先生の二人だけになってしまいました。私は、子供心に「私だけ、まだ居て、先生に悪いな~」とか「母さん、忘れちゃったのかなぁ~」「もう来ないのかなあ~」とか考えていたら、何だかどんどんさびしい気持ちになっていきました。
そんな気持ちのまま、ふと外を見たとき、夕焼けで真っ赤に染まった道路の向こうから母が自転車に乗ってやって来るのが見えました。
「さちえちゃーん、さっちゃーん」と大きな声で私の名前を呼んでいます。
あの時の母の呼び声と夕焼けの赤さと、先生の優しい顔が今でも脳裏に焼きついています。
何でもない日常的な光景なのに、あの時の光景を思い出すと涙ぐみそうになってしまいます。
所長 諌山静香