所長のエッセイ

所長のエッセイ

瑞穂の国の汗の結晶  稲穂

白露も過ぎて、記録的な猛暑が過ぎ去ろうとしている。
朝夕は幾分陽光も和らぎ始めた。
日が暮れるのがすっかり早くなって、夏の名残の中に涼風が吹きはじめ、道ばたにも落ち葉がちらほらと舞いはじめた。
季節の移ろいを感じる。
散歩の道すがら、秋を思わせる風の中で収穫前のさわさわと踊る稲穂に心を惹かれた。
田んぼは眺めるだけで私の郷愁を呼びおこす。
もしかしたら、私のDNAが故郷の風景として記憶しているのかもしれない。
稲穂というものを初めてさわったのは小学校の一年か二年の頃である。
そっと触れてみた。
どの稲穂も頭を垂れ実りの豊かな姿がとても可愛い。
田んぼ―枚、―枚に、枝分かれした黄金色の稲穂。
その鮮やかさがひときわ目に映える。
新緑のまばゆい頃の早苗開きからギラギラと照りつける真夏の太陽の暑さにもじっと辛抱し、耐えてきたのだ。
不平も言わず、黙々と刈り取りの時の来るのを待ち続けてきた。
空には、トンボがその日を祝うかのようにたくさん飛んでいる。
子どもの頃、食事の度に母が 「お米のできるまでの農家の方の苦労を感謝して一粒残さずおあがりなさい」と言っていた。
別の少しばかり刈りとった稲の株から生えるひこばえをすずめと鳩たちがおいしそうについばんでいた。
忘れられがちだが、開闢以来この国を支えてきたのは、
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
の精神で地道に生きてきた農家の人たちである。
彼等の汗の結晶でもあるからだ。
米はご飯をはじめ、酒や餅にも加工される。
食べ物への信頼が揺らいでいる現代にあって、日本人の主食である米の収穫を迎える喜びを感謝したいものだ。
稲穂はとても大切だ。それは、神様が大和民族にもたらしたものだから。
天孫降臨ノ際、天照大神が高大原で育てていた稲の種籾を日本人の主食にするようにと下され、栽培が始まったのが
稲作の起こりとその起源を説く神話が残っている。
日本はみずみずしい稲の穂が実る瑞穂の国なのだ。

所長 諌山静香