所長のエッセイ

所長のエッセイ

ちょっといい話(母の宝物)

昭和63年、入室のさとし君(当時 年長6歳)が、若奥さまとご一緒に語ってくださいました。そのかたわらで、お母さんがお二人をわらいながら見守っていらっしゃいました。
末長くお幸せに!!

僕の家は、母子家庭で貧乏でした。小学生の頃、僕はとてもファミコンが欲しかったけれど、家にお金がないことは わかっていたので母には言い出せませんでした。でもファミコンを持っている子がうらやましくて仕方ありませんでした。
小学校六年生のとき、クラスの給食費をまとめた袋が無くなったことがありました。その時、ファミコンを持っていない僕のことがあやしいなんて言い出した子がいて真っ先にみんなに疑われました。給食費の袋は、すぐに出てきたけれど、僕はその日一日くやしい気持ちでいっぱいでした。それで、家に帰ってから母にその気持ちをぶつけてしまいました。
「貧乏な家なんかに生まれてこなければ良かった!」
僕のことばに、母は何も答えず、とても悲しそうな目をして僕を見つめているだけでした。
僕は、やはりどうしてもファミコンが欲しくて、中学生になってから新聞配達をしてお金をためました。これでようやく遊べると思いながらスーパーのゲーム売り場の前まで行って買うのをやめました。そのかわり、小学校三年生の妹にアシックスのジャージを買ってあげました。いつも僕のおさがりばかり着ていたから。母にはハンドクリームを買いました。いつも手が荒れていたから。
昨年、僕は結婚しました。
結婚式の前日、母は、大切そうに、さびたハンドクリームの缶を持ってきて僕に見せました。
僕はその時初めて心から母に言いました。
「生んでくれて ありがとう・・・」
所長 諌山静香